ゆび切り

ぼくのおにいちゃんは物知りで すごいです



ぼくのおにいちゃんはよく ぼくと遊んでくれて楽しいです
おにいちゃんは 優しいです
ぼくはおにいちゃんが 大好きです




「なあ、お前、指何本ある?」
おにいちゃんが後ろから顔を出して ぼくに言いました
「んとね、片手に五本ずつあるよ」
ぼくは手のひらを広げてながめてみました
おにいちゃんはよくこうやって わけのわかんないことを言います
「5本だよ。お前、指に名前があるの知ってるよな?」
「うん 親指 人指し指 中指 薬指 小指  だよね」
「えらいえらい」
おにいちゃんはぼくの頭をなでました
おにいちゃんは 優しいです
「他にも言い方があるんだよ、親指はお父さん指って言うだろ?」
「人指し指はお母さん指だよね」
「そう。で、お兄さん、お姉さん、」
ぼくの頭を撫でるおにいちゃんの手 どんどん 摩擦が あ あれ 痛
「そして赤ちゃん。なあ、お前はどこにいる?なあ、お前が、いないんじゃないか。なあ。」
ぼくの横で 去年生まれたおとうとが ぼくをみて笑っています むかつきます
「な、お前は、いらない。」
おにいちゃんはぼくの髪の毛を引っ張りあげて ぼくを床に叩き付けて 部屋を出て行きました



『ぼくのおにいちゃんは物知りで、すごいです。
ぼくのおにいちゃんはよく、ぼくと遊んでくれて楽しいです。
おにいちゃんは、優しいです。
ぼくはおにいちゃんが、大好きです。


だからこれは、何でもないよ。ぼくが勝手に転んで怪我をしただけ。心配しないで。』



ぼくは床に頬をつけたまま 手を伸ばして指をかぞえました
ほんとだ ぼくが いない
ぼくが  ?


その時おにいちゃんが部屋に帰ってくる足音がして
ぼく 振り向きざまに ナイフでひとつき
豚みたいに床をはい回って あわふいて ぼく 絶命



ねえおにいちゃん
ぼくは ここにいなかったけど
うち 三人兄弟だから おねえちゃんも いないじゃん ばかだなぁ 可哀相な おにいちゃん